「アジャイル開発について知りたいが、本がありすぎて何を読んだら良いのか分からない」
こんな悩みはないだろうか。
この悩みはもっともだ。実際にアジャイル開発の本は膨大であり、内容自体も多岐に渡る。つまり、開発者向けのものから、チームリーダー向けのもの、またマネージャー向けのものまである。この中からアジャイル開発に対する知見がない人が自分にぴったりのものを探すのは確かに難しい。
そこでこの記事では、エンジニア歴8年で複数の案件でアジャイル開発を経験してきた筆者が、アジャイル開発に関するレベルと職務別の「アジャイル開発の読むべき本」を6つ厳選した。
書籍タイトル | ポイント |
---|---|
アジャイルサムライ−達人開発者への道 | アジャイル開発初心者が最初に外観を掴むのに向いている物語風なので読みやすい次の本とどちらかを読めば良い |
アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット | アジャイル開発チームのリーダー向けアジャイル開発で必要な振り返りについて特化してかかれている |
アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法 | アジャイル開発チームのリーダー向け見積もりについて特化してかかれている |
マネジメント3.0 適応力の高いチームを育むための6つの視点 | アジャイル開発チームのマネージャー向けアジャイルなチームを作るためにどうやってチームを作っていかについてかかれている |
それでは、早速内容を見ていこう。
1アジャイル初心者が、大枠を知るために読むべき本
まず最初にアジャイル初心者が読むべき本を紹介する。
最初に読む本は個別のフェーズや事象に特化したものではなく、全体を俯瞰して捉えることができて、読みやすいことが重要だ。
1−1アジャイルサムライ−達人開発者への道
まず、最初に紹介するのが「アジャイルサムライ−達人開発者への道」だ。
基本情報
タイトル | アジャイルサムライ−達人開発者への道 |
金額 | 2,860円 |
発行年月日 | 2011年7月16日 |
ページ数 | 288ページ |
Amazonのリンク | アジャイルサムライ−達人開発者への道 |
ポイント
アジャイル開発とは「本質的に何か」、「その際に重要な考え方は何か」を教えてくれる。
本の内容自体は、かなり硬派な内容でしっかりしている。しかし、見せ方としては、ユーモアを交えた図や物語風の解説が多いためかなり読みやすいと思う。
ありきたりな「これさえやればOK」という安易な記述がなく、様々な状況に合わせた原理原則の考え方が一貫して示されているため内容的にはとても信頼できる。
これは以下のような著者の考え方からくるものである。
私たちのソフトウェア開発の現場をどうにかできるのは私たちだけです。しかも、一つとして同じ現場はありません。だから「どんな書籍も手法も、君が必要とするありとあらゆるものを用意することなんてできない」のです。私たちは「自分の頭で考えるのをやめちゃだめ」なのです。
おすすめしたい読者
アジャイル開発について大枠の知識を得たいと思っている読者の方におすすめしたい。また、アジャイル開発を実践しているが、「あまりうまくいっていない」や「やらされている感が強い」と思っている方にもおすすめだ。
ノウハウ本は強力であるために、多くの人がそういった「何をやるのか」に飛びつき、「なぜやるのか」が抜けたなんちゃってアジャイル開発を実践しているプロジェクトも多いと思う。
そういった状況に置かれている人や、より良い開発プロセスを追求する人のために、どうしたら良いアジャイル開発を実践できるかを学び直すのには最適な1冊だ。
2アジャイル開発チームのリーダーが読むべき本
この章では、アジャイル開発を率いるリーダー的な役割の人が是非とも読むべき本を二つ紹介する。
2−1アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット
チームリーダー向けにまず紹介するのは「アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット」だ。
基本情報
タイトル | アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット |
金額 | 2,860円 |
発行年月日 | 2021年2月17日 |
ページ数 | 336ページ |
Amazonのリンク | アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット |
ポイント
アジャイル開発で重要な振り返りに特化した本だ。
振り返りは、チームが学習し進化していくためには欠かせない。そんな「振り返り」について以下の点を解説してくれる。
・「ふりかえりをなぜ行うのか」という目的
・「どんなメリットがあるのか」という効果
・「どのように行えばよいのか」という流れや手法、マインドセット
また具体的な手法や、初心者〜既に振り返りを実践している人にも参考になるような振り返りに関する悩みとTipsも紹介されている。
そのため、振り返りの初心者だけではなく経験者でもっと知識を広げたい人でも参考になる部分が多いと思う。
おすすめしたい読者
以下のような人に特におすすめだ。
・現在チームで振り返りを行っているが、メンバーからの発言がなく振り返りの効果が感じられない方
・これから振り返りを行いたいが、その意義をメンバーに納得してもらえずに困っている方
筆者はこの両方の状況に陥ったことがある。前職での話だ。
振り返りを毎週やっていたが、メンバーからの発言がなく毎週リリース物を確認するだけになっていたことがあった。そして、結局誰も効果を感じられなくなり、その会は廃止された。
また、前職で振り返りを再導入にトライした時のことだ。メンバーに振り返りの再導入の意図を説明した際に、メンバーから「開発時間がなくなるからあまりやりたくない」という反応を受けたこともあった。
このように、振り返りはその重要性とは裏腹に、継続的に意味のある活動にし続けるのは難しい。また、眼前のタスクを進めることに比べて、その重要性が認識されづらい。
こんな状況に悩まされている人にとっては、この本はかなり有益だ。振り返りをする目的やメリット、どうやって行うべきかをみんなに丁寧に説明し納得感を持って取り組んでもらう方法論を学ぶことができるからだ。
2−2アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法
2つ目に紹介するのは「アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法」だ。
基本情報
タイトル | アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法 |
金額 | 3,520円 |
発行年月日 | 2009年1月29日 |
ページ数 | 336ページ |
Amazonのリンク | アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法 |
ポイント
アジャイル開発における見積もりと計画作りに特化している本だ。
アジャイル開発とは不確実性に立ち向かうための開発手法であるはずなのに、工数の見積もり結果にコミットメントを求められることは多々あるだろう。
こうした現状に対して、「見積もりと計画作りがアジャイルでないのに、プロジェクトがアジャイルであるということはありえない」という強烈なメッセージを送るのがこの本だ。
なぜ、アジャイルな見積もりを行うべきかについて真正面から論じるとともに、それを行うための方法論や技法も詳細に紹介している。そのため、見積もりのやり方、プロジェクト全体での開発の優先順位の付け方、プロジェクトのスケジュールの立て方について具体的に述べられている。
見積もりの仕方については、アジャイルにおいてはストーリーポイントを使うなどと聞いたことがある人もいるかもしれない。しかし、そのメリットと具体的な活用方法についてちゃんと知っている人はそう多くはないかもしれない。そのポイントが具体例を元に説明されている。
また、本のもう一つのタイトルである「計画作り」に関しても手厚く説明されている。例えば、計画作りに必要な「優先順位づけ」についてだ。
一般的によく言われるのが、「ビジネス価値」に基づいて優先度をつけるというものだ。この「ビジネス価値」という言葉は非常に曖昧だ。そこで、この本ではそれを以下の4つの要素に分解して、より実践的な優先度づけの考え方を紹介してくれている。
・フィーチャーの金銭価値
・フィーチャーの開発コスト
・フィーチャーの開発で学べる知識量とその意義
・フィーチャーの開発で低減できるリスク
上記はあくまで一例であり、本書全体は文字も小さいため、かなりボリューミーである。しかし、その分だけ見積もりという切り口から、アジャイル開発についてより深い知見を得られるはずだ。
おすすめしたい読者
以下のような人にはかなりおすすめしたい。
・開発案件の優先順位をつける人
・プロジェクトのスケジュール管理をする人
開発プロジェクトにおいては、開発物の優先順位をつけることと、全ての開発が完了するまでにどれくらいかかるかという見通しを立てることがとても重要だ。
前者をしないと、優先度の低いものから開発してしまいかねない。
また後者をしないと、プロジェクトの締め切り時点で、完成させるべきものができていないという事態になりかねない。
これら二つの重要なポイントをクリアするために、アジャイルに見積もりをし、きちんと優先度の高いものからしっかりと終わらせていくという方法をこの本を通じて学べるはずだ。
3アジャイル開発チームのマネジメントが読む本
最後にアジャイル開発チームのマネジメントをする人が読むべき本を紹介する。
3−1マネジメント3.0 適応力の高いチームを育むための6つの視点
マネジメント層にお勧めしたいのが「マネジメント3.0 適応力の高いチームを育むための6つの視点」だ。
基本情報
タイトル | マネジメント3.0 適応力の高いチームを育むための6つの視点 |
金額 | 5,720円 |
発行年月日 | 2022年7月26日 |
ページ数 | 480ページ |
Amazonのリンク | マネジメント3.0 適応力の高いチームを育むための6つの視点 |
ポイント
マネジメントする側が、どのようにより組織の適応力を育てていけるかという視点で書かれた本である。この「マネジメント3.0」においては以下の6つの視点が重視されている。
・人々を元気づける
・チームに委任する
・制約を揃える
・コンピテンスを育む
・構造を育む
・すべてを改善する
この6つを理論と実践に分けてそれぞれ詳細に解説している。
例えば「チームに委任する」の章ではこんなことが書かれていた。何かを誰かに委任する際には、委任する相手の「成熟レベル」と与える「権限のレベル」のマトリクスで判断すること。権限のレベルは以下の7つに分類され、下に行くほどレベルが高くなる。
・告げる
・売り込む
・相談する
・合議する
・助言する
・尋ねる
・委譲する
このように「無意識にやっていたこと」が言語化されたり、「無意識にこうだったらより良いチームになりそう」と思っていた内容がさまざまな理論的な裏付けと共に説明されている。
おすすめしたい読者
アジャイル組織を率いているマネジメント層に強くお勧めしたい。
そもそも、アジャイル組織のマネジメントに関する本はかなり少ない。そのため、この本は数少ないマネジメント向けの本である。
また上述のように、なんとなくこうあるべきだ的な内容が様々な裏付けと共に言語化されている。そのため、今後のアジャイル組織をどう強くしていくべきかを考えるような立場にある人にとっては、今後の指針として役に立つことがたくさん見つかるはずだ。
まとめ
アジャイル開発に関する本を4つ、知識レベルと読者の立場別に紹介してきた。
アジャイル開発の本はそれこそ山のように出ているため、ここで紹介したもの以外にもたくさん発見することができるはずだ。
しかし、筆者はアジャイル初心者の方でも、この4つを順番通りに読めばそれだけでかなり骨太なアジャイル開発に関する知識を得られると確信している。
また、アジャイル開発は既存の開発環境に対して疑念を持つ人たちが試行錯誤をして作ってきたものである。そのため、ここで紹介した本はアジャイル開発に取り組むか否かに関わらず、より良い開発プロジェクトや開発チームを作るためにとても役に立つだろう。