「システム開発における要件定義はエンジニアの仕事」と考える人が多いが、果たしてそうだろうか?少なくとも、本記事にたどり着いた読者は、そうは考えていないはずだ。
要件定義とはいわば、「システムの価値を創造する工程」である。では誰が価値を創造するのか。それはシステム開発の関係者全員に他ならない。
つまり、要件定義という上流工程では発注者が積極的に関わっていかなければ、ビジネス価値を最大化するようなシステム設計は生まれないのだ。
本記事では、要件定義の重要性は理解していながらも、
「何から手をつければいいかわからない」
「実践的な知識を身につけたい」
と考えている読者のために、要件定義の概要から実践的な知識までを身につけるのにおすすめな書籍を厳選した。
書籍タイトル | ポイント |
はじめよう! 要件定義 ~ビギナーからベテランまで | ・要件定義のプロセスが平易な言葉で解説されている ・内容がコンパクトで図解も多いため読みやすい ・中級~上級エンジニアが初心に帰るためにも最適 |
だまし絵を描かないための– 要件定義のセオリー | ・要件定義によってトラブルが起きるのはなぜかを理解できる ・これ一冊で要件定義の概要から実践的なやり方まで知れる ・初心者にとっては少し難しい内容だが読み進められる |
演習で身につく要件定義の実践テクニック | ・架空のシステム開発プロジェクトを題材にしている ・ケーススタディ形式だから難しい内容も比較的頭に入りやすい ・上流工程で欠かせないがあまり形式知化されていない進め方、コミュニケーション、ツールに分けて解説している |
はじめての上流工程をやり抜くための本~システム化企画から要件定義、基本設計まで | ・要件定義以前のシステム化企画を重点に解説している ・「そもそも何を作りたいか?」を明確にする重要性を理解できる ・システム開発者の立場になって要件定義を考えたい発注者にもおすすめ |
書籍は難度別に紹介し、どういった課題を抱えている人におすすめなのかも細かく解説する。気になる本があれば、ぜひ読んでみてほしい。
※本記事における書籍の難度は、「要件定義初心者にとって理解しやすいか否か」を、弊社独自の視点で表したものである
1. はじめよう! 要件定義 ~ビギナーからベテランまで(難度:★☆☆)
1-1. 本のポイント
- 要件定義のプロセスが平易な言葉で解説されている
- 内容がコンパクトで図解も多いため読みやすい
- 中級~上級エンジニアが初心に帰るためにも最適
1-2. 本の特徴
本書は、初学者向けにざっくりとした内容を具体的なアウトプットとともに学ぶことができる。
184ページとボリュームに物足りなさを感じそうだが、要件定義のプロセスと、プロセスごとの勘所がコンパクトにまとまっている。
ちなみに、本書は「要件定義のプロセスと勘所を知れる」という点で独立した書籍だが、著者が書いた下記2冊と合わせると、理解をより深められる。
・はじめよう! プロセス設計 ~要件定義のその前に
・はじめよう! システム設計 ~要件定義のその後に
本書が有益だと感じた読者は、ぜひ上記2冊にも目を通していただきたい。
1-3. 本を書いた人
・羽生 章洋
桃山学院大学社会学部を中退後、ソフトウェア会社にて業種・業態向けのシステム開発に携わる。その後、アーサーアンダーセン・ビジネスコンサルティングに所属し、ERPコンサルタントとして企業改革の現場に従事。現在はエークリッパー・インクの代表。
1-4. こんな人におすすめ
目的に応じて、初級~上級エンジニアまで参考になる。非エンジニアの人においては、要件定義のプロセスを理解し、エンジニアに近い目線で上流工程を進めたい人におすすめだ。「要望、要求、要件」など基本的な定義からおさらいしたい人もぜひ手に取ってほしい。
2. だまし絵を描かないための– 要件定義のセオリー(難度:★★☆)
2-1. 本のポイント
- 要件定義によってトラブルが起きるのはなぜかを理解できる
- これ一冊で要件定義の概要から実践的なやり方まで知れる
- 初心者にとっては少し難しい内容だが読み進められる
2-2. 本の特徴
本書では、システム開発プロジェクト終盤でトラブルを引き起こす要件定義を「だまし絵を描く」と称している。実際のところ、未熟な要件定義というのはだまし絵に近い。パッと見は素晴らしくとも、さまざまなリスクをはらんでいるのだ。
このだまし絵を描かないためのマインドやプロセスについて、十分なボリュームで解説しているのが本書だ。図解は少ないため、冗長さを感じるかもしれないが、内容はすべて、著者の実体験を元にしているため納得感が高い。
初心者は読み解くのに少し時間がかかるが、一冊でがっつりと要件定義を学びたい人にすすめたい。
2-3. 本を書いた人
・赤 俊哉
SIerのプログラマー、システムエンジニアを経て、ユーザー企業の情報システム部門に着任。全社的なシステム化を推進し、BtoCビジネスも担当。現在は同社のIT戦略とともに、業務改革、データ経営の推進などに携わる。
2-4. こんな人におすすめ
読み解くのに多少の根気がいるとしても、要件定義を深く理解したい発注者におすすめだ。反対に、要件定義を軽く知りたいという人には不向きだと言える。
要件定義の不備によるトラブルに悩まされるシステム開発プロジェクトも多いため、中級~上級エンジニアにも参考になる内容だ。
3. 演習で身につく要件定義の実践テクニック(難度:★★★)
3-1. 本のポイント
- 架空のシステム開発プロジェクトを題材にしている
- ケーススタディ形式だから難しい内容も比較的頭に入りやすい
- 上流工程で欠かせないがあまり形式知化されていない進め方、コミュニケーション、ツールに分けて解説している
3-2. 本の特徴
本書は架空のシステム開発プロジェクトを題材に、要件定義について体系的に学べるのが特徴だ。上流工程の考え方や進め方に加えて、情報を整理するのに役立つフレームワークについても紹介されている。
ケーススタディ形式で書かれているため、システム化の際の要件定義のポイントを具体的に自分で考えなえて、先人の知恵と答え合わせをしながら読み進めていけるので学習効果が高い。
3-3. 本を書いた人
・水田 哲郎
1990年、日立製作所入社。以来、要件定義やシステム企画の方法論開発、普及、コンサルティングに従事。近年ではDXプロジェクトに注力している。2019年より日立コンサルティング理事、グローバル・ビジネスコンサルティング事業部事業部長。
3-4. こんな人におすすめ
すでに要件定義に取り組んでいて今以上に上流工程のスキルアップをしたいと考えているシステム開発者には特におすすめだ。
また、一見するとエンジニア寄りの内容だが、要件定義の「進め方」にも言及している。そのため発注者にとっては、内容をすべて理解するのは難しいかもしれないが、要件定義成功のためのヒントが随所に散りばめられているので、ぜひ手に取ってみてほしい。
4. はじめての上流工程をやり抜くための本~システム化企画から要件定義、基本設計まで(難度:★★★)
4-1. 本のポイント
- 要件定義以前のシステム化企画を重点に解説している
- 「そもそも何を作りたいか?」を明確にする重要性を理解できる
- システム開発者の立場になって要件定義を考えたい発注者にもおすすめ
4-2. 本の特徴
要件定義を成功させるには、マインドやプロセス(方法論)の理解は欠かせない。しかしそれ以上に、「そもそも何を作りたいのか?」を明確にすることが大切だ。したがって本書では、要件定義以前の「システム化企画」に、およそ8割の書面を割いている。
要件定義について書かれているのは約30ページ程度のため、知らずに読むと物足りなさを感じるだろう。そのため、本書は「システム化企画の内容が中心」ということを理解した上で、手に取っていただきたい。
4-3. 本を書いた人
・三輪 一郎
武蔵工業大学経営工学科を卒業後、株式会社プライドに入社。システム開発の方法論である「プライド」の日本語版開発に従事。大手金融会社、総合電機メーカー、電力会社、大手SIerなどのシステム開発プロセスの標準化、方法論教育などに注力する。2005年には政府CIO補佐官を務めた。
4-4. こんな人におすすめ
かなりレベルの高い実践的な内容になる。そのため上級エンジニア、もしくはこれからよりスキルアップをしたい中級エンジニア向けだと言える。
また、発注者でも社内でシステム企画を進めたい方にはおすすめだ。
まとめ
システム開発プロジェクトをガイドする書籍の中で、要件定義を題材にしているものが圧倒的に多いことからも、多くの企業・エンジニアが要件定義に重きを置いていると言える。
本記事で紹介した5冊の書籍は、要件定義の概要を知りたい初心者から、少しでもスキルアップしたい駆け出しエンジニア、プロジェクトに慣れた中級・上級エンジニアにもそれぞれ参考になる。
まずは一冊気になった書籍を手に取ってみてほしい。いずれも要件定義について有益な情報を発信しているためハズレはないだろう。